勝手口ドアを掃除した日、ブラーバが使える範囲を少しでも広げようと、いつからか床の隅にあったほこりだらけの袋を手に取ったら、中にRの古いカセットテープが10本余り入っていた。
Rに確認を取ると、テープの内容も聞かずに
「要らない」。
「『はらだ家の秘宝』もあるよ」
80年代、友人に秘蔵のレコードを録音してもらったとっておきのプログレ選集だ。
「いいよ。全部捨てて」
毎回思うけれど、Rは私と違って物に執着がない。
本も、使い終わった教科書や読み返すことのなさそうな文庫本でさえなかなか手放せない私と違って、ハードカバーやグラフィカルな本でも百冊単位でまとめてブックオフに持って行ってる様子。
時々「もし私が先に死んだら…」と考えて、私の物が詰まったこの家の中にひとり残されたRが呆然と座り込んでいる図を思い浮かべては「できるうちに私の物をなんとかしないと」と焦ってきたけれど、もしかしたら、Rだったら未練なく業者に頼んで一掃するかも。
うん、その方が私も気がらくだし、それでいい。
いや、なるべく先に整理しておこうとは思うけれど。
ああそうだ、物だけでなく、人にも思い出にも記憶にも執着のない人だった。
執着せず、期待しない人。
人や物に何かを望まない人。
20代の頃は、その意外なドライさを物足りなく思い、30代の頃にはその諦念に心が痛んだものだけれど、今思えばそのおかげで私とでも一緒にやって来てくれたんだ。
ありがとう。
R画 「ペンギン」
にほんブログ村 その他生活ブログへ