入院の1ヶ月前に、Rと一緒に手術説明会に出た。
同じ系統の手術を受ける本人とその家族の計十数人が、病院の長い長い廊下の奥の部屋へ通されて、配布された十数枚の資料と壁のスクリーンに投影される図や写真を見ながら、手術方法や手術後の注意点や起こり得る合併症などの説明を聞くこと、約半時間。

「網膜に癒着している後方の硝子体を切除して、その周囲のゼリー状の硝子体を掻き出して、空いた眼球内を特殊なガスで満たします」
前にインターネットで読んだ「眼球に三本の金属棒が入ってくるのが見える」手術の状況が、断面図で説明された。
「この眼球に入っている三本の棒は、眼内を照らす照明と、人工房水が出る管と、手術器具です」
ああ、やっぱりそれをやるのか…。
「手術で起こり得る極めてまれな合併症のひとつに、眼球穿孔があります。強度の近視の場合、眼球が奥に長細かったり白眼の膜が薄かったりするために、眼球の膜が破れて、虹彩などの組織が出てきて失明することがあります。まあ、確率としてはゼロに近いですが、起こらないとは言い切れません」
私くらいの近視は「強度の近視」に含まれるんだろうか。
私はまだ網膜の表面に孔は開いていないので自然治癒する可能性もあるようだけれど、それでも手術は必要なんだろうか。
私の場合、「よりによって」ってふうに間や運が悪いことがよくあるし、しなくても治るかもしれない手術をしたせいで運悪く失明してしまったりしたら…。
医師 「以上です。何か質問がある方はどうぞ」
R 「はい」
(え? 私と同じような心配を…?)
医師 「はい、どうぞ」
R 「硝子体は何の役に立ってるんでしょうか」
(は?)
R 「今の説明では、いいところが何もないですよね。むしろそれがあるせいで、こういった病気が起きてしまう」
医師 「その通りです」
(えーっ?)
医師 「なので、全部取り去って水(房水)に置き換えても問題ないのです」
R 「ではなぜそこにあるんでしょう」
医師 「今は役目がなくても、太古には何か必要があったのかも知れないですね」
R 「進化の忘れ物のようなものですね」
医師 「そうですね」
Rと先生、違う世界に行ってる。
そのあと出た質問は、
Q 「手術後のうつむき姿勢って、ずっとですか? ご飯食べる時はどうやって食べたらいいんでしょう」
A 「あまり上を見上げて食べる人はいないと思いますし、うつむいて食べてもらえばいいですよ。飲み物にはストローを使えば大丈夫でしょう」
Q 「私はお腹が出てるので、うつ伏せで寝るのはしんどそうなんですが」
A 「クッション類を用意していますので、それらを胸の下に当てたりして工夫してみてください」
Q 「手術は痛いですか?」
A 「麻酔をしますので痛みはありません。ただ、その麻酔の注射がかなり痛いです。もし手術中に痛くなってきたら麻酔を追加しますので言って下さい」
等々。
この日の説明の中で一番驚いたのは、術後に起きる可能性が高い白内障に備えて、あらかじめ水晶体と入れ替えておく人工レンズのしくみ。
眼の中の水晶体を超音波で砕いて吸引して、代わりに人工レンズを入れるんだけれど、なるべく小さな切開部で済むよう、レンズは柔らかな素材で作られて折りたたまれていて、眼の中に入れたあと自動的に展開するようになっているらしい。
すごい。
で、どんなふうに折りたたまれているんだろうと気になって検索したら、この手術、以前は眼球を1cm以上切開してレンズを入れて、その後、眼を縫合(!!)する必要があったらしいことがわかった。
現在は折りたたみレンズのおかげで3mmほどの切開で済んで、傷は縫合なしに自然にふさがるらしい。
よかった。
手術受けるの、本当に今でよかった。
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