昨晩、夜中にふと目が覚めた。
一度寝付いたあと途中で目が覚めるのは珍しい。
Rの方に寝返りを打つと、こちらの枕の方にぐいっと伸びたRの腕に頭が当たって(それで目が覚めたのかも知れない)、変わった格好で寝ているなあと目を開けると、目の前にあるはずのRの顔はなく、見えるのは、黒い頭。
え? 向こうを向いているのに腕がそんなふうにこっちに伸びる?? 腕がヘンになってる? いや、体はこっちを向いてるのにエクソシストのように頭だけ向こうを向いてる?? と驚いて飛び起きて上から見ると、こちらを向いているのは頭ではなく、黒い顔。
黒いもしゃもしゃのクセ毛の下に、それより少しだけ黒味の少ない、濃い灰色のものがこちらを向いている。
目も鼻もなく、ただぼんやりと丸い濃い灰色のもの。
というよりも、黒い髪と白いパジャマの襟元の間に、灰色で塗りつぶされた空間があるよう。
ぎょっとして、わけがわからず、いや、かげになって黒く見えてるだけだ、と眼鏡をかけて目を凝らしたけれど、目も鼻も見当たらず、うろのようになっていてどこにも焦点を結ばない。
自分が寝ぼけているのかと立ち上がってダウンライトをつけてみたら、ちゃんとこちらを向いている顔が現れた。
「R! どうしたの、だいじょうぶ??」と、そっと顔に触れると、ちゃんとある。
白いパジャマと黒い髪とのコントラストでそう見えただけかもと安心して明かりを消すと、また、凹凸のない、灰色の塊が現れる。
いや、だから白いパジャマと黒い髪のコントラストで…と思おうとしたけれど、見ると、腕はちゃんとヒトの体の色合いをしている。
顔だけが塗りつぶされたように黒い。
わけがわからず、また、明かりをつけてみる。
うん、顔がある。
その状態をよく覚えておいて明かりを消してみるけれど、やっぱり、顔の部分だけがごっそり抜け落ちたように、黒い空間が現れる。
もうすっかり目が覚めて、とても寝ぼけている状態ではなくなったけれど、目の前にあるのは、信じがたい光景。
ああ、もう、気にしないでおこう、たまたま何かの加減で今そう見えているだけなんだ、気にしないで寝よう、と目を閉じるけれど、髪に縁取られ黒く塗りつぶされた正体のわからないものがこちらを向いているのが恐ろしくてたまらず、「顔がなくてこわいから向こう向いて」とRを反対向かせたものの、ただそう見えていただけにしても、何かの不吉な知らせに思えて気になって仕方がない。
気になって仕方がないけれど…気付いたらまた眠りに落ちていた。
今思い返しても、とても寝ぼけていたとは思えず、顔のない黒々とした不気味なものが頭から離れない。
何だったんだろう。
(朝、Rに「昨日の、覚えてる?」と聞いたら、「寝ぼけたやつに『顔がない!』って騒がれて起こされていい迷惑だったよ」と。寝ぼけてなーい!)