夜、リビングでクッションの上に寝そべっていたRが急に「わーっ!」と声を上げて腕を振り上げた。
「ムカデ!」
えっ?
「びっくりした! もぞもぞすると思ったら手の上にムカデがいた!」
「ムカデって、刺すやつ? それともムカデみたいな細いやつ? 刺された?」
「ムカデ。刺されてないけど、ムカデがのってたところがチクチクしてる」
いったいそんなものがどこから部屋の中に入ってきたのか。
Rの手首を見ると、足跡のようにいくつか点々と赤く腫れている。
以前私がムカデに咬まれた時には、飛び上がるほど痛かった割には腫れることもなく済んだけれど (念のために夜間救急病院に行ったら、先生に、なんでこれで来るかなあというような呆れた顔をされた。去年の夏にコケた時に夜間休日診療で診てもらったのと同じ先生)、Rは触れただけで腫れている。
「病院に行く?」
「だいじょうぶだと思う。それより、やっつけないと危ないよ。手を振ったらそのあたりに飛んでいった」
「どこ?」
「そっち」
よりによって、前回・前々回の片付けで手付かずだった服と書類の山の方だ。
そっと山の下を探ってみる。
「いた?」
「うーん、いない」
今日は講演を聞きに行った後に体を動かして疲れていたので、早く寝ようと思っていたけれど、やむなく長年放置してあった山の整理。
山の下から他に逃げて行かないように、まずは山ごとズズッと移動して棚やファイルボックスから離して孤島にして、去年・一昨年の冬物ニットを一枚一枚ムカデが入り込んでいないか確認しながら洗濯カゴに移して、紙類のホコリを小物用掃除機で吸い取りながら分類して積み直し。
でも、結局ムカデは出てこなかった。
まだこの部屋のどこかにいるらしい。
けれどこの部屋の状態では探しようがないし、棚の後ろにでも潜み続けて出てこないでいてくれることを願うのみ。