卒論のことを書いていて思い出した。
大学の同じ学科にTくんという人がいた。
非常にぎこちない動き、独特の声と独特の口調、コミュニケーション上の問題。
誰の目にも明らかに「普通」じゃなかった。
研究室のPCのキーボードを叩きながら「殺シテヤル、殺シテヤル…」とつぶやき続けたり、講義中の教授に向かって千枚通しを振りかざしたりしたこともあって、みんななるべく彼には関わらないようにしているようだった。
私は講義やゼミ以外の時間は学科の人たちと一緒にいることはほとんどなかったので、Tくんとも他の人たちとも挨拶程度しか接していなかったけれど、Tくんには、なぜかなんとなく同類感を感じていた。
Tくんの方もそうだったようだ。
卒業制作(共同制作制)の時期になって学科の人たちと行動する時間が増えた頃、制作メンバーと一緒にいた時にTくんが通りかかり、いつものように互いに挨拶し合った時、「あのTくんがとうこちゃんに挨拶してる!!」と、一緒にいた人たちにずいぶん驚かれた。
その時聞いた話によると、Tくんは他の人たちには挨拶することはなく、最初の頃みんなの方から挨拶したら、無視されたり「殺シテヤル!」(だっけ。違ったかも)と言われたりしたそうだ。
その後もTくんとは話す機会がないまま卒業したけれど、一度、卒業して間もない頃サークルに顔を出しに大学へ行った時に、大学のバス停でTくんにばったり出会った。
その時珍しくTくんの方から話しかけてきて、その時(多分)初めてTくんと話した。
「僕はTさん(私の旧姓)は他の人達とは違うと思っていました。
Tさんには僕の考えなどが理解してもらえるだろうと思っていました。
Tさんの卒業論文を読ませて頂きました。
素晴らしかったです。(だったかどうか忘れたけれど、とにかく気に入ったというようなことを言ってくれた。いや、興味深かったと言ってたのかな。うれしかった。)」
なぜ私が、自分とは一見共通したところのない彼を同類だと感じていたのか、なぜ彼にもそう思われていたのか、当時は自分でもいまいち理由がわからなかったけれど、今ならわかる。
Tくんは、私の脳と同じスペクトラム上にある脳をしていた。
Tくんが学科の中で唯一進んで隣の席に座ったり会話したりしていたのは、いつも一番前の席に座っていた「教授」というあだ名のAくんだった。
AくんはTくんとは打って変わっていつも黙ってにこにこしている人だったけれど、「教授」という呼び名でわかる通り、Aくんも今思えばASっぽかった。