「ちょっと、頭の後ろの裾、おかしいことなっとらんかいな?」
「ん? 別に。」
「そうか? なんかここんとこ、おかしないかな。ちょっと切ってえな」
と、Rの母親が、散髪ばさみとすきばさみを持って出てきた。
はさみはTARO印。
指を入れる輪同士が当たるところに飴色の半円の石が嵌っていて、番い部分におどけた顔のTAROくんの刻印が入ってる。
「どこで切ろにな。お風呂場で切るけ?」
「そうやね。Rさんの頭もいつもお風呂場で切ってるわ」
と、Rの母親に続いて風呂場に入ると、昔懐かしい小石モザイクタイルの床。
「わ、懐かしい昭和のタイル!」
「そうか?」
「うん。私んとこも昔こんなやったわ。懐かしいー」
「あんた、ほんまに変わったもん好きやなあ」
裾の先がちょんちょんととんがってるのが気になるようなので、そこをすきばさみでしゃくしゃくすいた。
Rと同じ、細いくせ毛。
なんて柔らかで心もとない。
半透明の白い髪なので、ぱらぱらと洗面器に落ちて見えなくなる。
「ようなったけ?」
「うん。それより、ここがずいぶん長いし、切っとくよ」
「ああ、襟足な。襟足の毛、長いんやわ。日本髪したらええ具合やで」
透けるように白い肌に白い髪なのでこれまで気付かなかったけれど、首筋の両側に長く伸びる襟足から、白く長い髪がふんわり上に向かって伸びている。
なんてきれいな首筋。日本髪を結うための襟足。
「もうええか?」
「うん。ちょっとここのタイル、写真に撮らせて。めちゃ懐かしい」
「あんたは何でも写真に撮るなあ」
けらけら笑う母親。Rと同じ、細く高い声。
高い小窓から射す光は床まで充分届かず、ケータイではうまく写らなくて、明りを点けたらずいぶん雰囲気が変わってしまった。
残念。