一昨年の一月の終わりの日曜日の夕方。
ネットでの一番古くからの友人のひとりの突然の不幸にショックを受けていた時。
なかなかそれを受け入れられず気持が整理できないまま、一日中部屋に座り込んで何度も何度もその人のブログや弔辞が寄せられた掲示板を眺めていたところへ、玄関の呼び鈴が鳴った。
出てみると、宅配便。
届いたのは、
「トゥオネラの白鳥に捧ぐ鑑賞ノート」のShinjuroさんからの贈り物だった。
現実の手応えを思い出させてくれるかのようにずっしりと重みのある函。
開けてみると、Shinjuroさんが装幀された幾冊もの『現代思想』と『ユリイカ』(写真の左隅に積み上がっているものも全て!)と、コラボレーションで参加されている映像作品のDVD『儚 十九夜物語』(映像作品だけでなく、DVDのパッケージと中の小冊子のデザインと舞台衣装も制作されています)と、作製されたexlibris(蔵書票)が出てきた。
見本として出版社から受け取ったものなのでどうぞお気遣いなく、とのことばが添えられているお心遣い。
一枚一枚開いていく薄紙の包みや封筒に、とても丁寧で細やかな気づかいが感じられ、一冊一冊手触りの異なる美しい装丁の本は、手にするだけで慰められた。
メッセージが添えられたイタリアのカードには、まだ友人の不幸のことはブログにも書いておらず御存じないはずないのに、マリア様の像に手を合わせる少女の暖かな絵があり、両手でそっと包み込まれたように綴じられた便箋の中の文面にも、まるでその時の私の心情をどこからかご覧になっていたかのようなことばがあった。
不思議な符牒。
日が沈んでいく部屋の中で、ぼんやりと、その不思議を噛みしめていた。
日が経って落ち着いた頃、Rと一緒に見た『儚 十九夜物語』では、Shinjuroさんのコラボレーション作品に現れた文字(タイポグラフィ?)に、また驚いた。
その文字のデザインが、Rがタイトルなどを手書きする時の絵的な文字にそっくり!
いや、そっくりというのは大変大変失礼だけれど、丸とシンプルな直線が強調されたその不思議な形は、見慣れたRテイストで、思わずふたりで声を上げたほど。
そう言えばケースもR好みの菫色。
ますます不思議な縁を感じずにはいられなかった。
端正だったり柔らかだったりPOPだったりと、それぞれ表情の異なる装丁。
喪失感を埋めるかのような本の重みと、心に添うような繊細な蔵書票。
時間の流れが変わるような映像が収められたディスク。
一月の終わりを迎える度に、それらに囲まれ驚き癒されたあの時間を思い出す。
本当にありがとうございます。
写真は届いたその夕方に陽の落ちかけた薄暗い部屋で撮ったもので、西日で色合いも少し変わっていて、ピントも甘々。
ブログ用にはあらためて撮り直そうと思っていたけれど、この写真にあの時の気持ちがそのまま一緒に写し込まれているような気がして、作品やデザインの色合いが少し変わってしまっていて大変失礼ながら、やっぱりこの時の写真を使いたくて。
Shinjuroさんの作品の本当の色合いを、ぜひこちらのブログでどうぞ。
「トゥオネラの白鳥に捧ぐ鑑賞ノート」
(カテゴリの中の「HOLONの仕事」に、これまで手掛けられたデザインの一部が纏められています)
なお、Shinjuroさんのデザイン工房[HOLON]は、本日設立十五周年を迎えられたとのこと。
心よりおめでとうございます。
来年2013年2月に、日本橋茅場町の森岡書店さんにて、これまでのブックデザインとタイポグラフィの展示が催されるそうです。
お近くの書物好きの方は、ぜひどうぞ。