前々回帰省した時に書きかけたままだった、父親のアルツハイマー型認知症の状態メモ。
六月の帰省二日目に、妹が、母が入院していた三ヶ月の間預かっていた父親を連れてきた。
父親と一緒に玄関に入って来た妹が「ここ、どこかわかる?」と父に訊くと、
「いや、わからん」
「お父さんの家やで」
「わしの家? 知らんなあ。じゃあさっきまでいたんはどこや?」
「私の家やん」
「なんでそんなとこにいたんや?」
「お母さんが病気になって入院してたから、私んとこに来てたんやん」
「お母さん、病気やったんか? どこ悪いんや?」
「がんやってん」
「がん? えらいことやないか」
「だから、お母さんに用事言いつけやんと、ゆっくりさせたってや」。
でも、数分後にはもう母に向かって、
「おい、水」「おい、これ洗え」。
「お母さんは退院したところやからゆっくりさせたってってば」
「はあ? お母さん入院してたんか? 病気やったんか?」
いくら言っても数分後には忘れてしまうので、妹が、父が座る目の前に大きく、
『お母さんは病気で手術したばかりなので、お母さんにあれこれ用事を言わないこと』
と書いた紙を張り出した。
そうしたら、5分おきくらいにそれをゆっくり読み上げて、そのたびに
「お母さん、病気やったんか? どこ悪いんや?」
と繰り返す父。
何度も訊かれて面倒なので、張り紙の下に
『お母さんの病気はガンです』
と書き足す妹。
妹が帰ったあと、張り紙を読み上げ、その間にも部屋を行き来している母を見て、
「おい、動いて大丈夫か?」
と声をかける父。
「これくらい大丈夫やよ」
と、母。
またしばらくして張り紙を読んで、母を見て、
「おい、そんなんやってて大丈夫か?」
「大丈夫やよ。預かってもらってたお父さんの服、片付けてるんやよ」
「わしのか? お母さん病気なんやろ? そんなこと嫁はんにさせろや」
「はあ? あんたの嫁はんは誰なん?」
「え…?」
妹の家にいた間も、最初は妹が自分の娘だとわかっていていちいち「すまんなあ」と言っていたけれど、そのうち妹に「おまえはわしの嫁はんか?」と言い始めて、だんだん横柄な態度で妹をこき使うようになっていったらしい。
「ここはわしの家や。わしが建てたんや」「なんでわしの家に子どものおもちゃがあるねん」とも言ってたそうな。
薬(アリセプト)を飲んでいるにしては進行が早い気がする。