7月の朝、部屋を出たら、狭い廊下の壁際に積み上がった本や段ボールの上に懐かしい装丁の函があった。
中央公論社の『世界の名著』。
このシリーズをよく見かけたのは1970年代だっけ。
Rが書斎から引っ張り出してきて持ち歩くのにかさばる函をここに残していったのか、中身は入っていない。
何を読んでいるのかと見ると、レヴィ=ストロースの『悲しき熱帯』。
数百円という定価に時代を感じる。
へー、みすず書房のしか知らなかったけれど、こんな古いベストセラー全集にも入っていたのか。
っていうか、家にみすずのとこれと二冊ある? 私が持ってるのにRが確認しないで後から買った?
いや、みすずではこれは出てなかったんだっけ。で、他のは装丁が気に入らなかったから買いそびれているうちに、私が古本屋でこれを見つけた時に買ったんだっけ。
このシリーズの臙脂色は昔から好きでなかったけれど、好きでないうえにペラペラなデザインのよりは「これはこういうものなんだから仕方ない」と開き直れるこっちの方がましだと思って買ったんだろう。
うん、確かそうだった気がする。
で、買ってきて未読棚に入れて、そのままページを開かなかったんだ。
あの書斎からよくこれを見つけたなあ。
…と思ってあとでRに確認すると、これは最近Rがamazonで買ったんだそうな。
じゃあ私のは? と思ったら、どうやらそんなものははなから存在しなかったよう。
昔ながらの古本屋で向かって右奥の突き当たり近くの棚にこれが並んでいるのを手に取った映像まで浮かんでいたのに。
想像したものと記憶にあるものの区別がどんどん付かなくなってきている気がする。